ひとりのにんげんと逢ったよ。あなたとおなじ性だった。
あなたに似ていたよ。あなたとおなじ博愛を胸にもち、腹にはおなじ、いじけ虫を飼っていた。
最後に見た君は斯くも弱弱しく。残した言葉は伝わらず。
距離を感じた背中。深まる秋の昼下がり。去りゆく輪郭。
潰れそうな君を見て、壊れそうになった僕。
おれはあなたがだいきらいだったよ。憎くて、ころしたくて、うらんで、呪った。おとなになれば気持ちがわかって、酒でも酌みかわしたいとおもうようになるなんて、ぜったいにないと確信していたよ。じじつこの歳になっても、あなたとまともに話せる気にすらなっていなかった。
それじゃあ 話が違うと呟いた。青い空に呟いた。
貴方に向かって呟いた。
どうぞ 無能な僕に教えてください。
その答えの意味は。
この青空の下で誰に聞けばいい? 貴方以外の 誰に。
遺伝子がこわかった。成長するにつれて色濃くなるそれに吐き気がしたよ。
病院はきらい。入院とくすりで、おれを頭がおかしいと診るから。
僕は本当に一人ぼっちになった気分で。
ああ。
いつしか 理想なんて。
けれど、おれはやつ当たりと言いがかりをうけとめてくれる人にであえたよ。あなたにしてみたかったことを、させてくれたよ。おれは、二度だけ泣かされた。
もう帰るの。
何も話せてないよ 僕と貴方は。
あなたとしたかった会話をたくさん代わりに交わしてくれた。おれがなにもうらみたくないとうちあけたら、かんじのわるい笑いかたをするんだ。夕立のように泣くんだ。いとおしくてたまらないんだ。
俺の貴方よ 貴方の俺だと世界に向かってどうか云って。
そしたら俺は 俺から貴方を あなたへ屹度解放するから。
あなたはあなた。かれはかれになったよ。てのひらにずっとあったあなたとの記憶が、ようやくうわがきできました。
おれの寛恕をめざめさせてくれました。
わだかまりも、恐怖も、愛もない。憐憫だけで、呼ばせて。
父さん。
おれの、のろけをきいてくれるかな。
終. |