単発text03_2
此処に眠る。
| -(+Y) | 痴話喧嘩 |
| <1.〜2. |
| 喧嘩してます |
3. 「テンゾウ、居る? ていうか、プラス一の気配も捉えてるんだけど――どうする? ここ、開ける?」 反射的に室内の二人は気配を絶った。が、時すでに遅し。捉えたと言い渡された気配を今更一旦絶つという行動はお互いに苦笑ものであった。と同時にその心理には震えるほどの共感を覚え、理解し合った、二人は目配せで絶叫した。 (先輩だー!) (あのド鬼畜野郎が襲来したー!) 玄関戸の向こうではまさにカカシが、眠そうな片目でゆっくりと瞬きを一回していた。それから、ドア越しにまた口を開く。落ち着いた口調でも、聞き慣れている者にはそれが普段より鋭くて低いことが判る。 「ねえ、開けるの? それとも、壊していいの?」 (こうなったからには、籠城すればしただけ不利になると思いますよ!) (あの声……猛烈にブチギレてるよな?) 「あと十秒で決行。はーち、……」 (奇数飛ばしてるー!) (突っ込んでる場合か、カカシさんに玄関ぶっ壊されるぞ!) 「ろーく、」 テンパったヤマトは思わずハンドシグナルを飛ばす。(僕と、君の、二人で、敵方向、進もう。) イルカも咄嗟に、(駄目。)と返す。 (時間ないの!)外から聞こえる「よーん、」の声に合わせてヤマトが指を四本立てる。 「にーい、」 クッと眉間に皺を寄せたイルカは、舌打ちをして了解した。 「じゃあ出るよ。いいかい、借家の玄関を死守する方を選ぶけど友を売る訳じゃないからね。」 「分かってるさヤマト、俺達の友情は永遠に不滅です。」 「ヤマト、行っきまーす!」 勢い良くノブを回した彼の、先輩の片手は帯電して青白くなっていた。 「やあ。」 さも暢気そうに一方の手を軽く上げている間に、下の方でパチパチと小さく鳴っていた光もふっと鎮まった。 「イ、イルカさんをお迎えに来たんですよね、先輩。」 「何しに来た。」 話をするヤマトの背中から、にゅっとイルカがしかめっ面を現した。 カカシは、恋人を迎えに来たわけでもなければ探してすらいなかった。本人にも直接宣言した通り、彼の働きかけはやはり食堂のあの場面で終了していた。ここには拒否権のない後輩に愚痴を聞かせる為にだけやって来たのであったが、それをイルカに先越されてしまっていたのである。彼は長年可愛がってきた後輩をあっさり取られて悔しいような、自分よりも懐かれている後輩が憎たらしいような、釈然としない心持ちになっていた。 「人様に迷惑掛けるんじゃないよ。」 「人んちの玄関を破壊する気だった人には言われたくありません。」 「ちょ、ちょっと、ちょっと、お二人とも……、」 「お前とは後日話そう、良かったね俺に可愛がられてる後輩で。問答無用で叩きのめされる格好しちゃってまあ。」 「ああああ、違、誤解です! これは葱を……、」 「テンゾウが困ってるでしょ、帰るよ。」 暗殺戦術特殊部隊に属していた頃の旧称で呼ぶのを改めない先輩は、後輩の言葉には耳を貸さずにあの恐ろしく冷たい眼で恋人を見据えている。 「ヤマトが困ってるじゃないですか、帰ったらどうです。」 「ハア……。」 どうして両想いになんかなってしまっているんだろうこの二人は、その思いが溜め息となって、間に立つヤマトの口から流れて落ちた。 「そうだ、ご飯を皆で仲良く食べながら、ゆっくり話し合いましょうよ、ね?」 「……。」 カカシは腕組みをした。 「ね?」 「……。」 イルカは嫌そうにそっぽを向いた。 「先輩、僕達ちょうど夕御飯を買いだしに出るところだったんです。一緒に、何処かへ食べに行きましょう。」 古い呼び名を改めて欲しいとは、とても言いだせなかった。 「……俺は、別にいいけど。」 「ヤマトがいいなら、俺も別にいいけど?」 「うん、よし、はい、いいよ〜、いい流れだよ〜、じゃあ行きましょう、ね。はい、決まり。」 両人をまとめるヤマトは心の底から、どこか平穏な土地へと旅に出たくなっていた。 (面倒くせえー! この人たち、激烈に面倒くせえー!) 4. 三人は高級牛肉店の座敷の一室で、すき焼き鍋を囲っていた。土鍋に蓋をしたイルカは対面に問うた。 「……カカシさん、謝る気になったんですか。」 「笑止。」 「ええっと、ですね。先輩。先輩はまず、イルカさんに謝りましょう。」 「なんでよ。」 「ほらア! ほらね!」 イルカはカカシを指差して、反省の色などまるでないその態度を隣に訴える。しかし、ここまできて調整係に徹する腹を決めた男はなるべくどちらにも付かないように心掛けていた。 「ちょ、イルカさんは黙ってて。」 「おうん……はァい……。」 「カカシ先輩、イルカさんのことは、これからはもっと優しく起こしてあげて下さい。」 (何だって僕がこんな注意をしなきゃいけないんだよ、何歳なの? 全く。勘弁してよ。何なの、この話し合いの中身……。) 「気を利かせて起こしてやったのに怒られる筋合いなんてない。」 「眠っている人間の足首を突然下に引っ張って無言のまま床から引き摺りだした挙句に第一声が淡淡とした声で『起きた?』って、おかしいだろ! もう、その、語尾が上がってるのも腹が立つ! 普通に起こせ、もっと優しくしろ!」 「お前らねえ、口を揃えて『優しく』『優しく』って何なのよ! 俺にどうしろっていうの?!」 「だから、普通に起こせばいいだろ?! なんで話が通じねえんだよ!」 「話も何も、朝の時点でだんまりを決め込んでいたのはそっちだろ?! 折角挨拶したのに返事もしやがらないし、機嫌が悪い理由を聞いても無視。怒っていいのは俺の方でしょ、なんで謝らないの?」 「ハイ、ハイ!」ヤマトが挙手をして二人を制する。 「イルカさん、『普通に』は、先輩には幾ら言ってもいつまでも伝わらないです。先輩、そのやり方で起こされて不快にならない人間はいません。それに、朝が弱いといって、起きるのに気合いの要る人がこの世の中にはいるんです。それの最たる人がイルカさんなんです――いや僕は知りませんけど、そうなんですってよ。だから、これからは出来得る限りの優しい発声で起きることを促すか起床時刻であることを根気良く告げ、体に触れるのであればさするみたいに揺らしたり、リズムを取る程度の強さでポンポン叩いたりして下さい。叩くというか触って離す、触って離す、を繰り返すイメージです。もしくは、有効な手段としてはキスをす」 「あーあーあー、それは言わなくていい、ヤマト!」 「何だよテンゾウ、言いな。」 「教えなくていい!」 「吐きな。」 「……。」 ヤマトは卓袱台返しを派手に一発かましたい気持ちになったが、元来が世話好きな性格なのだろう、目を瞑り、指先で眉間を押さえる仕草でその煩わしい感をやり過ごしてしまえた。 「ここのすき焼きを美味しく食べ終わることができたら先輩には後でこっそり教えますよ。とりあえず、以上の点をイルカさんに謝って下さい。起こし方が不味かったんです。」 「……、……悪かった。」 「イルカさんも。先輩は無視されて傷付いたと思いますよ。」 「済みませんでした……。」 「いつまでも意固地になってないで、カカシ先輩と仲良くしてくださいね。先輩がここまで気にする人間なんてイル」 「テーンゾー、何を言おうとしてるのかな、お前は?」 「そこ、もっと詳しく。」 「……。」 「冗談だって、ヤマト。カカシさん、理由を伝えず勝手に怒っていて御免なさい。」 「その件に関しては、もーいーよ。」 「何その……、いや、マアいいです、こっちの主張も分かってくれたんなら。俺、寝起きの時の人間性は本当に最低なんです。顔を洗ってしまえば多少の諦めも付くのか覚醒を果たすんですがね……、朝の俺には構わないでください。」 「ハ?」 「俺もなるべく八つ当たりしないように心掛けますから、カカシさんも、あの起こし方だけは二度としないで下さい。」 「……アァ。」 漸く裁き終わったかと息を吐き、ヤマトが出来上がりの合図である蒸気を立ち上らせる蓋を開けた。 「にーく! にーく!」 既にイルカの意識も美味そうな肉に移っていた。そして食事をする気がないのか未だにマスクを下ろさないカカシは、 「この際だから言いたいことが、一つあるんだけど。」 と言い出した。 「まだあるんですか。」 後輩ががっくりとし、 「まだあるんですか?!」 恋人は呆れ顔になった。 5. カカシは自然な動作で手の平を自分に見せるイルカに気付いて手元の器を差し出した。 「豆腐。イルカセンセーはさ、なんでベッドで寝ないの?」 「肉も食いなさい、肉も。卵割りました?」 「使わない。」 「張った方が絶対に美味いですって。」 「どう食おうが俺の自由です、生卵でグチョグチョにする意味が分からなーいよ。肉は要らん、豆腐を入れろ、豆腐、オイそれ糸こん。俺の話、聞いてる?」 「同じ寝間で寝てるでしょう。」 いの一番に鍋から肉を存分に掻っ攫って狭い器に目一杯ぶち込んだヤマトは、はふ、はふ、と口の中にどんどん詰め込んでゆきつつ二人を見守るという体で高級牛肉を楽しみ始めた。イルカは一通りの具を入れてから器を目の前の人に返す。 (先輩、甘えてるなあ。) 彼の知るカカシは、何でも自分でこなす人であった。そして多分、今日のこの場面でも放っておいたら箸を持つことなくお茶を啜って帰ると思われるほど食事に関心を示さない。そんな男がマスクを下ろし、勝手に盛られた具も不満気ながらに口へと運んでいる。ヤマトには、他人の領域にガンガン攻め込んでゆくイルカの無遠慮さも、己の先輩が持つ鉄壁な心の硬さも、その両方が愛おしかった。 「いつまであんな、床に敷いた薄い客用布団で寝てる気なのさ。いい加減にしてよ、邪魔。ていうか、一々不便。」 「……出てけって、ことですか。」 「違う、ベッドで寝ろって言ってんの。不便。」 「アー……、カ……カカシさんちのベッドって、俺には柔らか過ぎるんです。布団なんかなくっても、板間で寝てても平気なくらいなんですよ、俺は。それにほら、一緒に使ったら狭くなるし。なんか、そんな……便利? に、なっても、ねえ? 何が不便なのか知りませんけど。」 「じゃキングサイズの硬めのベッドに変えたら文句ない訳だね?」 「う。文句って……そんな勿体無い買い物しなくっても、なあヤマト、勿体無いよな。」 「げふっ、僕にふあないげ、」 「お前、詰め込みすぎだって。何回言えば直るの。残念な子だあよ。」 「碌なことねえんだよな。」 そう呟いたのはイルカである。 「大体、他にも言いたいことがあるならこの際言っておけってんなら、俺にもまだあるんですよ、やめて欲しいこと。あれです、あれ、全体重を乗せてくるやつ。」 「えー。」 「えー、じゃねえ。」 「何それ?」 口の中がすっきりしたヤマトは、不可解まじりの阿呆らしい目を隣に向けた。 「なんで朝っぱらから、全部位を寝ている俺の体の上に収めることに挑戦しだすんですか。」 「『おお、凄い、俺、今、イルカセンセーの上にしかいない』みたいな、さ。」 「やめろ! 元旦にジャンプして年越しには地球にいなかったとか言って喜ぶ生徒を思い出したわ、金輪際するんじゃねえ。どれだけ重たいと思ってるんです。不愉快極まりない、内蔵が潰れる。」 寝起き早々上に乗られて全体重を掛けられているらしい方は、白飯を掻っ食らいながら不満がる。 「腕の上に腕、胴体の上に胴体、足の上に足、ってな具合に、物の見事に万遍無く俺を圧迫してくんの、この人。俺の大嫌いな時間帯に。やってくることが基本的に痛い、苦しい、理不尽。」 「先輩、そんなことまでしてるんですか……、好きだからって甘え過ぎですよ。」 後輩のその答えに、 「ハ?!」 先輩の片目はギッと釣り上がり、友はきょとんとした。 「え?」 「え、……って、……え、え?」 この後、ヤマトを挟んだすき焼きの会は肉の追加に次ぐ追加と、投入物を飯にするかうどんにするかで繰り広げられた真剣な議論とで二時間半にも及んだという。支払いは、殆ど食わなかったカカシがスマートに決めたとさ。おしまい。 終. |
| (2012.09) |
| 素案:過去設置アンケート、管理人作成の回答例;『二人にヤマトを投入してみる(例)』 |