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此処に眠る。

side I +Y 余談

無視してさしつかえない話



1.

忍の隠れ里の一つが、火の国にもある。
そこで生まれ育った忍はいうまでもなく、その力を頼って里の内外から訪れた民間人もがひっきりなしに出入りする、木ノ葉の里の任務受付所で依頼人と話しているのは、中忍の隊長だ。
「それじゃお願いしますわ。」
「お任せ下さい。」
請け負う言葉とともに微笑んだ、青年の振舞いに穏和な人柄が滲み出ていた。
本件を担当する小隊構成員として召集されたイルカは、邪魔にならないよう壁際に下がって、他の二人と手続きが終わるのを待っていた。年単位で受け持っている赤ん坊の保育という長期的な主要任務をひと月抜けて、これから北の関所を通り、雷の国へ行く。それは少年にとって久しぶりの遠出でもあった。
「いい天気になって良かったなあ。」
彼はわくわくしていることを隠し切れない。
「おい、任務だぞ。」
「そうなんだけど、お前らと組むのも久しぶりだしさ。」
「へへ、まあな。」
卒業してからというもの会えていなかったアカデミーの同窓生が、久々に集っていた。男子は互いにニヤニヤしながら曲げた肘を揺らして小突き合っている。「やめなよ」と女子がそれを窘める光景は何年経っても変わらない。
彼らの目的地は、雷の国の南端、火の国に程近い地理にある。





火の国との国境近辺に栄えたその都会は、南西に針葉樹林帯がくっ付いていた。街の西部の外れに墓地があって、深い森が背後に形成されている。
森へと続く一本道が白いのは、墓場に入る手前から煉瓦の舗装が既に途切れているからだ。奥へ、奥へ。本道をずっと行き、途中の枝道に逸れて、更に進む。と、その先には幽霊でも出そうな古い館がひっそり建っていた。荒廃してはいない。が、かといって手入れの行き届いた花壇に季節の花が咲いているというでもなく、窓は多いのに昼間でも殆どのカーテンが引かれたまま夜の帳が下りても洩れる灯りの細い線は限られた部屋に確認されるだけで、門を叩く者もない。
やや離れたメタセコイヤの木陰から、そんな敷地の内で起こる住人の動きの逐一を、気配を潜め、遠巻きに観察している動物面が一つ。
角度を変えた所にも、白地に朱の縁取りや紋様の施された面が息を殺して、一つ。いくら街の中央で青果市場がごった返していようとも、明るい昼間であろうとも、大きな館とそれを隠すように聳え立つ周りの木々は、そんな日向の出来事とは切り離された静けさを有していた。
「俺、参上。」
猫を模した面の横にすっと新たな動物面が加わり、報告を始めようかとした矢先、
「シ、誰か出てきます。」
勝手口に現れた針金のように細長い人影は、何かをぶつくさ言いながら立派な本館の脇にある井戸から水を汲み上げ始めた。カラカラと軽快に鳴る音と、ギギ、ギギとさも重そうに回る滑車の音が交互に響く。
テンゾウは様子を窺いつつ、再開された報告を聞いた。
「照会結果だが。あの豚野郎、こっちの掴んだ通り、抜け忍のアサカで間違いない。整形しまくってやがるが同一人物だ。」
「やっぱり。そうでしたか。」
そこへ、水を汲んでいるのよりよっぽどその罵りが似合う腹の出た、脂ぎった中年の男が杖を突いてのっしのっしと登場した。

「旦那様。」
「どうにも落ち着かなくてね。まだ来ないかい、頼んでいた御一行様は。」
「へえ、まだ来んですな。」
「もう少しだ。……そう、もう少ししたら、きっと引っ越そう。もっと豪奢で刺激的な、色と欲が際限なく渦巻く、国の首都へ。どうだい、お前もその時が楽しみだろう。」
やむなく仕事を中断し、使用人は話を合わせた。
「へえ、そら楽しみですな。」
地下へ垂れる綱を握っている、まるで骸骨のような肩をぽんと叩いてから、すっかり良い身なりの主人に成り上がったアサカはそわそわした様子で再び屋内へ引っ込んで行った。蓄えた赤茶色の顎鬚を撫でる芋虫みたいな太い指にも、突く杖の柄にも高そうな宝石が嵌め込まれていた。
「アレのどさくさがあってからまだ二年と経ってないだろう。何を食やァ、あそこまででっぷりするんだか。」
動物面の言うどさくさとは、九つの尾を持った妖狐がある晩に突如として彼等の隠れ里を襲った事件のことだ。一夜にして里は半壊、その混乱に乗じて里抜けの禁を犯した忍が、アサカだった。そして、そうした忍を残らず見付け出し粛清する任を、面を被る者達は負っていた。里を貫く鉄の掟が要求する代償はたった一つ。それは本人の命のみであり、誓った忠誠を裏切った罪からは死をもってしか解放されない。
「あれじゃ跳べませんね。」
「さてね。どこまでが自前だか分かりゃしないぜ。」





2.

両の肩紐をクンと下へ引っ張ると、イルカの背で背嚢の中身がゴソリと揺れた。一番上の空間にわざと余裕を持たせて発った彼は帰りまでにそこを、どこかでなんとかして買った土産物で一杯にしようと企んでいる。
(ナルトが好きそうで、賞味期限の長いやつがありゃアいいな。)
離乳食を終えたばかりの顔がニパッと笑顔になる瞬間を思い出しながら低い峠を越える。木ノ葉の里を出発してからまず着いた集落で雇ったロバに、依頼人は乗っていた。この夫人は、足の悪い旦那の代理で南に下って来たのだと言う。その行きの道程も単身では流石に無理で、商隊の後方に便乗して来たそうだ。

雷の国の国内には峻嶮な山脈が走っているが、火の国から北上する分には難所という程の難所もなく、一行は無事に入国を果たすことができた。
辿り着いた隣国の都会で目にした風景は、何もかもがいかにも他国らしく、イルカは年少の胸を躍らせた。道中の宿場町には鄙びた品しか揃っていなかったけれども、先ほど通り抜けた活気溢れる青空市場には色とりどりの美味しそうな果物や珍しい野菜が山のように売られていた。噴水の向こうにはどんな専門店が建ち並んでいるのだろうと思う。ところが、宿屋の看板の下も素通りしてゆく夫人に従っているうち、彼等はとうとう墓場も過ぎて深そうな森へと入ってしまったのだった。ロバとは国と国の境に設けられた関所で別れていた。
「あの、奥様。」
白手袋に日傘を差す夫人は、徒歩になってからも疲れた素振りを一切見せない。ひ弱そうな外見とは裏腹の体力で、一刻でも早く着きたそうに家を目指す。彼女は若さの一言で片付けられないほどに健脚だった。
「あら、イルカ君。何かしら。」
夫人の足は踝まであるスカートの丈がきっちりと隠していた。
「街の中心からは少々隔たった所だとおっしゃっていましたが、どんどん入り込んで行くんですねえ。」
「ええ、そうなの。」
「これじゃ、なにか用が出来るたびに移動しなきゃいけない距離があって大変ですね。」
「そうね。だけど、賑やかな空気は性に合わないの。貴方、疲れて?」
「いいえ、平気です。わあ、この辺りは、杉林ですか。」
「え、ええ。」
「さっき抜けてきた市場って、毎日開かれているんですか。」
「ええ。」
「へえ、そうなんですか。あ、もしかして、この道は御屋敷専用に作られたものだったりするんですか。」
「ええ。」
「本当に。そりゃ凄いですねえ! ところで、つかぬことを伺いますが、どうして木ノ葉までお越しになられたんです。」
「え。」
その選択が不自然でない理由なら勿論存在する。標高の高い連峰を越えるという試練を課される雲隠れの里へ行くよりは、直線距離で測れば遠くなるものの木ノ葉の里の方がマシという考え方だ。現在、両国は友好関係を結んでいるから、他里に依頼をしても特に波風が立つこともない。彼の質問は、ごく何気無いものだった。しかし、夫人の強張った空気を読んだ隊長がお喋りの口を慎ませた。
「イルカ、あとちょっとで着くと言われているだろう。それくらいのあいだ、静かにしていろ。」
「そうよ。女のアタシよりお喋りってどういうことなの。」
「ご免なさい。」
「ふふ、明るくていいじゃありませんか。夫も喜びますわ。近頃ずっと塞ぎがちで、怯えて暮らしているんですもの。ああ、母屋の屋根が、ほら、あそこに。」
一同が指差された方に顔を上げると、黒っぽい屋根の一部がちらりと見えていた。





「おい、どういうことだ。」
数日前にどこかへ出掛けたきりだった夫人が戻ったと思ったら、こともあろうに同郷の忍を一小隊連れているのだ。見慣れた深緑色の隊服を遠目に捉えた、別部隊の三人は驚かざるを得なかった。
「俺にはウチんとこの隊服が入って行くように見えたが。」
「僕も今、同じものを見ちゃいました。里からは追加の連絡って、特になかったんじゃ?」
「ああ。あんな状況に関連する話は毛ほども聞かなかった。」
「何、あれ。今の、見間違い? 何が起きたの?」
別の角度から見張っていた一人も飛んできて、頭を寄せ合った。

「どうなってんだ、クソ。」
「抜けた里に自分から接触する、なんてこと、有り得る?」
「べ、別人じゃ……」と思わず口走る若年のテンゾウを叱咤したのは、里での照合作業を終えて戻ったばかりの先輩だ。
「しっかりしろ。あいつはアサカだ。やっとそう結論を出せたところだろうが。俺様が持ち帰った結果を疑う気か、このスカタン。」
「そんなつもりでは。すみませんでした。」
「良いってことよ。」
「そうそう、って、なんでお前が言ってんだよ。」
「てへ」と返した相方は仮面のせいで舌を出しそびれてから、腕を組んで真面目な声になった。
「さて。あいつ、どうしてこんな危険な真似を?」
「詳細は不明ですが、奸計、ですかね。」
「さあな。」
三つの白い面が見詰める壁の内側では、アサカが元同胞達に偽名を名乗っていた。





「ようこそ。遠路はるばるお越し頂きまして。この通り足が悪いものですから、代わりに妻を遣ったのです。お前、悪かったね。外は怖くなかったかい。」
「いいえ、貴方。大丈夫よ。私の御喋りにも付き合って下さって、楽しく帰って来たの。」
「そうかい、無事で何よりだ。おお、主のクルと申します。貴方がたには、ここいらで万一の異変が起こった際の、その対処と、それから私の大事な家族の身の安全を保証して貰いたいのです。」
館の外の隠密からは同業時代の本名で呼ばれていた四十絡みの男は自身をクルと紹介すると、細い目を肉に埋もれさせてさらに細くし笑みを作った。
「ええ、その内容でお引き受けしています。」
「これから一カ月、宜しく頼みました。」
「はい。」
隊長がお辞儀をするのに合わせて、イルカも行儀よく頭を下げた。下げながら、広い家にしては主人のほかに誰一人、出迎えの姿を見せてくれないことが正直なところ物足りなく、また、その点に微かな違和感を覚えてもいた。





3.

アサカは、滅私奉公の果てに露と消える、草としての生き方をやめて自由になりたかった。
阿漕な手法で闇市から伸し上がった第二の人生において己に商才があったことを知ると、もっと高くにある自由に目が眩んだ。華やかな階段をどこまでも駆け上がり、大手を振って人生を楽しみたくなった。追い忍の影に常に脅かされている、重しが乗っかったような心持ちから解放されたい。消せるだけの過去を消して、彼は考えた。そして、あることを思い付く。
「全く別な人間となった俺から、打って出る。」
すると、それさえ成功すれば暗殺者から逃げ続ける生活とはオサラバできるという希望が湧いた。たとえそれが幻想であれ思い込みであれ、これからの未来を賭けた何かしらの行動を起こさなければいられない程に、或る時ふっと殺されるかもしれないという恐怖に付き纏われる暮らしは彼を疲れさせていた。
「抜けてきた里を欺いてやるのだ、成金商人のクルとして。」
出身里の忍から、自分を一般人として扱わせる。そうしてある程度の期間を乗り切り、捨てた奉公先に成功報酬を渡すことができた時、そこから晴れて表向きの人生が本物の人生になる。騙す相手自体に加担させて、既成事実を作るのだ。里側は、まさか抜け忍が堂々と依頼をしてくるなどとは思っていない筈だ。
「この一カ月。この一カ月で、里に認めさせてやる。俺は抜け忍のアサカじゃない。依頼人のクルだ。」
正規部隊への依頼は、架空の野盗から依頼主の命を守ることとした。この四人がいる限り、万一暗部が己を狙っていたとしても奴等は手を出せまい。双方が身内に切っ先を向けることになる図が引けた。後日その図と男の正体に気付いたとしても、味わった出し抜かれた感はそのまま里の恥になる。では、躍起になって殺しに来るだろうか。元から追われている身だ。終わらせる為には賭けるしかない。時には、抜け忍一名の始末くらい諦めることだってあるかもしれないのだから。執念深く追うことを已め、最初から居なかった者として見逃すことだってあるかもしれないのだから。掛かる経費や外聞を考慮し、この件ばかりはもう追うなという通達が出されるかもしれないのだから。
それでも、流石に里の中枢部にある任務受付所へと踏み込む勇気までは出なかった。だから彼は、女を代理に立てて向かわせたのだった。


さて、本館の他には、遊歩道と東屋も設えられた裏庭と、隠居に使われたという別棟、それに加えて所有地とそうでない森の判別が半ばつかないような土地の端に納屋があるということで、イルカが率先して「巡回に行く」と元気良く手を挙げると、アサカは案内がてら膝の運動になるからと行って付いてきた。
欲望は鋭利な精神で削ぎ落とすより、息を吹き込んでぷくぷくと膨らませる方が理に適うというのが、この男の持論だった。
「ところで、イルカ君。歳は幾つだね。」
「今は十四。もうすぐ十五です。」
「そうか、そうか。いいね、若いというのは。それだけで、さ。」
「そうなんでしょうか。」
「はは、可愛い子だね。」
「へ、ふ、ふへへ、よく言われます、親ほども違う歳の方からは。」
「そう。それで、君はなんて答えているのかね。」
翅のない虫が肌を這うような不快感を覚えて白目を剥きかけたイルカは、アサカの丸い顔面に膝蹴りを入れたくなるのをぐっと堪えて返した。
「ただ、ありがとうございます、と。」



木ノ葉の一個小隊が、しんとした森の館に着いて三日が過ぎた。不意に夫人が滅茶苦茶な提案をしたのは、一階の食堂に誘われて連日ある十五時の喫茶時間中のことだった。
「貴方、私、息が詰まりそう。」
不自然なほど人目を避ける節がある使用人たちは今も敷地内のどこかにはいて、勤勉なのかどうか知れないが無駄口も叩かずに各々の家事をこなしているのだろう。予想外の重苦しい閉塞感に参っていたイルカは、夫人の言葉に同感だった。
「そうだわ。ねえ、久しぶりに大岳の温泉に出掛けてもいいかしら。」
「あの。お話を遮って申し訳ない。それは、どちらにあるんですか。」
嫌な予感しかしない隊長が居住いを正して尋ねた。相伴にあずかっていた下忍の三名も、長い洋卓に出された紅茶と焼き菓子を楽しんでいた手を引っ込める。
「山の中よ。ここから一番近くの山にあるの。この裏庭からでもきれいな円錐の天辺が見えるわ。」
「奥様、それは困ります。狙われているかもしれないのにウロウロするのは如何なものかと。」
「あら、だって子供達も家の中でずっといては可哀想よ。元々私達が身の危険を感じたことは一度もないのだし。この人の思い過ごしかもしれなくってよ。そんなものに付き合ってあと半月も毎日じっとしているなんて、嫌。」
「ううむ。」
「隊長さん、貴方、今度のお仕事中に誰かに襲われて?」
「い、いいえ。」
「宅に、なにか怪しい点でも見付かって?」
「ありません。」
「もうこのまま何事もなく終わるのよ。財産を狙う輩なんてどこにもいやしませんわ。ねえ、いいでしょう?」

隊長の傾向には、徹底した上意下達の方針を採る者と、部下と話し合って決める者がいる。ここに派遣された穏和な中忍は後者だった。
「女湯に入れるアタシはお出かけ組ね。」
「隊長は留守番組にいるべきですよね。」
「そうだな。」
「と、なると。後は俺とイルカがジャンケンな。」
掛け声とともに力一杯握った拳を突き出し、
「よし!」
残る一席を見事に射とめたイルカはその拳をぐっと引いて素直に勝利を喜んだ。


「すまないねえ、妻の思い付きを聞き入れてもらって。なにせ奔放なもので。」
「い、いいえ。それはいいのですが。あの、奥様。その、大きな鞄と量は一体……?」
「あら、二週間ばかりも逗留するのよ、これくらいの荷物は必要だわ。」
「に、二週間?! 帰って来る気……ないんですか?!」
夫人は夫を一瞥してからつんとして、
「主人は安心したいだけなの。勝手にしているといいんだわ」と答えると子供たちの背を押して、先に玄関広間へ歩き出させた。どちらも男児で、歳は六つと九つと紹介されていた。この二人を見掛けるのは三度の食事の席だけで、それ以外の時は廊下をちょろちょろするでもなく、日中どこで遊んでいるのか不思議だった。子供部屋の場所さえ不明で、始終俯きがちな兄弟はニコリともせず、人前では声を発したことさえない。そうして、イルカが話し掛けようとしても逃げるように早々退散してしまうのだった。
「私達の方は問題なくってよ。別荘があるから、そこにいるわ。それで、貴方がたは、どなたが随従して下さるのかしら。」
「この二人が。」
女子とイルカが手を挙げる。
「私とこの者はここへ残ります。」
「貴方、来て下さらないの? 守るべきは、か弱い方じゃなくって? 走り回る子供が二人もいるのに、それで人手が足りて?」
口にこそ出さないでいたものの、あの二人が果たして手の掛かる騒ぎ方をするのかと思ったイルカの片眉は、にゅっと上がった。

呆れた顔をしてアサカが聞いた。
「だったら、どうしたら済むんだい、お前の気は。」
「隊長さんが来てくれなくては嫌よ。人数も、三人要るわ。あなたはここに一人でいるんだから、用心棒だって一人付いていれば足りるんじゃなくって?」
夫人の台詞を聞いてすぐさまイルカが、
「隊長のことを気に入ったんだ」と仲間に目配せすると、
「これは隊長が気に入られたに違いない」と男子の瞳が強く同意していた。爛爛とした女子の目は、
「夫婦不仲説が浮上したわ、うふふ、泥沼の愛憎劇に突入しちゃったりして、うふふふ」という気持ちを十二分に表していた。
そんなこんなで、主張を押し切った夫人と子供の方には、隊長と下忍の女子と男子とが随伴することになった。主人のたっての要望で、留守居には何故かイルカが指名されたせいだった。
今回の任務難易度は最下級のDとされていたし、実際、こうした家族の雰囲気からしても依頼主の気休めの為に雇われただけと思われる。依頼主に振り回される実務に悪い意味で慣れてしまっていた隊長は、その条件をも飲み込んだ。ジャンケンに勝っていたイルカは余りの衝撃によろめき、がっくりと膝を突いた。
(不条理だ……、こんなのは、不条理だ……。)
「それじゃ、貴方、行ってきます。」
「ああ、行っておいで。」
こうして丸めこまれ、フォーマンセルは四分の一にまで戦力を落とされた。アサカの視点を借りて述べれば、フォーマンセルは彼の素性を疑い出す危険性を帯びた目を、必要最低限の数に減らされたのだった。










-続-
4.〜6.>